定年準備と老後資金、「億り人の思考法」を参考に「節約」について考えてみた

私は定年後を見据えて、定年準備の一環として、老後資金の準備をし始めている。

50代になると、これから先の収入増は期待しにくいので、老後資金捻出のためには、支出の削減、要は「節約」に依存せざるを得ない。

 しかし、「節約」は大なり小なり何らかのストレスを伴いがちだし、しかも、それは一時的ではなく継続的に行わなければならない。

 このため、如何にストレスを感じることなく、なるべく自然な形で「節約」を遂行していけるかが老後資金形成の上でのカギとなる。 

大江英樹さんの「となりの億り人」における「億り人の思考法」が興味深い

 大江さんは主として個人投資家向けの営業職を中心に、野村證券で定年まで勤め上げた方である。その大江さんの著作の1つである「となりの億り人」における「億り人の思考法」が「節約」を考える上で非常に興味深い。

https://publications.asahi.com/product/23306.html 

この本は、自営業者やサラリーマンで多額の蓄財に成功した人達の共通点を取り上げ、分析した本である。その中で、職種に関係なく、大江さんが感じた「億り人の思考法」というのが紹介されている。 

「地位財」と「非地位財」

 大江さんが本書で、米国コーネル大学のロバート・H・フランク教授の話を消化している。

このフランク教授によると、「地位財」と「非地位財」というものがある。

 「地位財」とは、他人との比較の上で価値が生じるもので、収入や社会的地位、物だと住宅や車などを言う。

他方、「非地位財」とは、他人との比較は関係なく、自分にとってそれ自体に価値があるもので、休暇、自由、仕事の環境の快適さ、家族や友人に対する愛情などを言う。

 フランク教授によると、多くの人は一般に「地位財」を求める傾向があり、人類が進化の過程で生き残っていくためには愛情・自由だけでは不十分であり、そういった「地位財」を求めるのは本能的なところがあるという。

 また、フランク教授は、人々は「地位財」を追い求めることによって、短期的な満足度は得られるかも知れないが、それによって、長期的な幸福の源泉となる「非地位財」を失いがちになるということを指摘されている。

 ところが、資産家は「非地位財」に価値を見出しているようなのである。

そう聞くと、「お金が沢山あって、物的なものは何でも入手できるようになって、関心が他のものへと移っただけではないか?」と考えるかも知れない。

 しかし、大江さんによると、彼の経験上、「億り人」の多くは物的な「地位財」に飽きて「非地位財」に関心が移ったわけではなく、当初より、自由、働く上での快適さ、家族への愛情等を重視してきたように思えるという。 

「億り人」が「非地位財」を重視する理由と「節約」における示唆

 「億り人」になったから「非地位財」に関心が行くようになったということではなく、

当初から「非地位財」を重視するタイプだったから「億り人」になれたという因果関係がポイントのようである。

 大江さんによると、「億り人」になるには「収入」よりも「収支」が重要ということである。当然であるが、映画「マルサの女」でも知られた話であるが、いくら「収入」が多くても支出が多いとお金は貯まらない。反対に、「収入」が大して多く無くても、貯蓄率が高ければ資産家になることも可能である。事実、大江さんは一般サラリーマンでも多額の資産を形成してきた人を何人も見てきている。

 重要なのは「収支」であって、蓄財のカギは如何に「節約」を上手くやり遂げることが出来るかということなのである。

 何故一般の人にとって「節約」が難しいかというと、他人が持っているものを持てなかったり、他人がやっていることが出来なかったりすることはストレスに繋がるからである。 

流行の車、電気製品、ファッション、旅行、外食を自分も保有・経験したいと思うことは、ごく自然なことに思われるが、それには「他人との比較」という要素が入り込んでいる。

 しかし、「他人との比較」という視点を消し去ることが出来ると、「流行」というものに縛られなくなる。例えば、多くの人がiPhoneを持っていたり、ディズニーランドに行ったり、ナイキのスニーカーを履いていたりするのを見て、自分も同じようにやりたいと感じることは特別贅沢とは言えないかも知れない。

 しかし、「他人との比較」「流行」を全く気にしないのであれば、そういったものも特に欲しいと思わない。そうなると、自然な形でストレス無く「節約」が遂行できる。それを長く続けると、「億り人」になれるということである。 

ケチケチせずに、ストレス無くして、「節約」するコツ

 「他人との比較」や「流行」は気にせず、無駄な出費を抑えて「節約」に励むと聞くと、

非常にケチケチした印象があり、自分には無理だと感じてしまうかも知れない。

 実際、私もFIREを若くして達成した人が「収入の8割を貯蓄に回す」とか「月10万円以内で生活する」というのを見て、そこまでしてFIREを達成しても羨ましくないと思ったものである。

 確かに、一般の人が「他人との比較」や「流行」を完全に捨て去るというのは現実的ではない。

 しかし、「他人との比較」や「流行」に対する考え方を、ある程度抑制することは可能である。車、ガジェット、ファッション、外食、旅行等、全ての項目について「流行」を追わなければストレスが貯まるというわけでもないだろう。

 そこで、大江さんによると、「自分にとって最も価値のあることは何か」ということを真剣に考えて、その優先順位に沿って支出を決めればいいということである。

 全てにおいて節約するのではなく、自分が重視することについてはお金を使ってもOKで、他方、大して拘りが無いものについては思い切って節約をするということである。

 そうすると、自分が重視する物については節約をする必要が無いので、大きなストレスを負うことなく、全体として節約を遂行して行けるという理屈である。

 このあたりのメリハリをつけた「節約」の推敲が重要ということである。 

「億り人」が生命保険や医療保険に入らない理由

 ここでも生命保険が叩かれてしまうのだが、大江さんが取材したところによると、サラリーマンで多額の蓄財に成功した人で多額の生命保険に入っている人はいなかったということである。

 上記の「他人と比較しない支出」や「優先順位に基づく支出」と、「余計な生命保険に入らない」という話と何の関係があるのかと思われるかも知れない。

 この点、大江さんによると、日本人は非常に多額の生命保険に加入しており、この背景としては「みんなが入っているから」「生保レディに勧められたから」ということがあるそうだ。

しかし、自分自身の考えや軸がしっかりしていると、「周りが入っているから」ではなく、本当に必要か否かで判断するそうである。

 そうすると、サラリーマンは厚生年金に入っているので「遺族年金」に入っているため、足りない分だけ掛け捨ての安い生命保険に入れば十分という発想になるそうだ。

そうすると、月に3万円当たりの保険料を払うところを、月千円程度にすることが可能であり、その浮いた3万円を年3%で30年間運用したとすると、それだけで約1748万円にもなるという。

 更に、「本当に自分が求めるものなのか」という視点で冷徹に支出項目を分析すると、グレードの高いクレジットカード、リボ払いの金利、周りが入っているから自分も入ったスポーツクラブ、大して役に立たないスマホのオプションプランといった支出を抑えることが可能であり、先ほどの保険代に加えて2万円を運用に回すと、30年後には約2913万円と、3千万円近い金融資産を産み出すことが出来る。

 上記はほんの一例だそうだが、サラリーマンで「億り人」になれた人は、このような方法で節約を実行しているのである。

 「節約」の計画を立てる前に、まず、「自分自身が本当に価値を感じるもの」とそうでないものを明確化できると、ストレスを緩和でき、「節約」の成功確率を高めることができそうである。