60歳で再雇用を選択しない生き方を考える

大半のサラリーマンは再雇用を選択すると聞くが…

 大企業の場合は、60歳で定年を迎え、そこから65歳までの5年間は再雇用という雇用形態の企業が多いと思う。

 再雇用になると、年収は大幅ダウン。

60歳の定年時の半額だとまだマシな方で、1/3以下になるケースもあると聞く。

 また、大幅な年収ダウンだけでも十分ショックなのに、タイトルとかも剥奪され、

元部下だった者や後輩達の部下の様な形で働くことになるということも、サラリーマンにとっては辛い話である。 

かなり厳しい再雇用であるが、半分以上のサラリーマンは再雇用を選択するようだ。

https://beyond-age.net/media/independence/saikoyo-career-231208/ 

このような問題点の多い再雇用を選択する理由は何か?

 条件的には過酷な再雇用制度であるにも関わらず、何故多くのサラリーマンが再雇用を選択するのだろうか?

 その理由は単純で、他の選択肢との比較においては、再雇用を選択せざるを得ないという人達が多いからだ。

 再雇用以外の選択肢としては、転職するという手がある。

しかし、50歳を過ぎた時点で転職するのは厳しいのに、60歳で他社で定年になったサラリーマンを採りたいという企業は非常に少ない。よほどの専門性とか強い顧客網でも持っていない限り、転職という手段は現実的に取りにくい。

 もちろん、条件を下げれば可能性は増えるかも知れないが、再雇用と大して変わらないレベルになると、それなら再雇用の方が楽だということになってしまう。

 転職以外の選択肢としては、起業というのがあるが、長年サラリーマンをやって来て60歳を迎えた人が、簡単に起業で成功するというのは難しい。現役時代に副業でそれなりの結果を出し、それを伸ばしていける余地があればいいが、そういったスキルを備えたサラリーマンは極めて少数であろう。

 もちろん、お金に余裕があれば働かないという選択肢もあるが、

年金支給開始までの5年間、仮に月の生活費が30万円としても、5年で生活言費だけで1,800万円が必要となる。これだと、退職金の大部分に相当する金額であり、定年後の年金生活のため老後資金のことを考えると、選択しづらい。

 最後は、再雇用とアルバイトとの比較になる。

60歳になると、アルバイトですら、選び放題ということは無く、時給1,500円以上の仕事が簡単に見つかるわけではない。仮に、時給1,200円のアルバイトであれば、月にフルに200時間働いても、月収24万円にしかならない。それなら、仕事のやりがいや体裁の面で魅力は無くても、まだ、再雇用の方が楽で高収入ということになる。

 以上の様に考えると、再雇用を選択するサラリーマンが多いという現実を理解することができる。

 「再雇用は詰まらないし、60代の大事な時間を自分が好きな事につかうべきだ」と言えるサラリーマンは、転職力、起業できる能力、働かなくても問題が無い資金力等を有していると考えられ、「再雇用は選択しなくていい」と言えるのは強者サラリーマンということだろうか? 

再雇用を選択しなくても良い条件とは?

 再雇用反対派のサラリーマンの言うことは理解できる。

男性の平均寿命は80歳以上と言っても、自由に好きな事ができる健康寿命は7172歳である。そうすると、60歳時点で、残された健康年齢は1112年ということになる。

その十数年のうち、5年間を不本意な再雇用で過ごすのは勿体ないというのは説得力がある。

 それでは、60歳定年時点で再雇用を選択しなくても良いというサラリーマンになるためには、どういう条件が必要なのだろうか?50代のうちに準備が可能であれば、やっておきたいところである。 

①ローンをきれいにしておく

 60歳の時点で住宅ローンの残債がそれなりに残っていると、働かないとか、すぐには収入を得られない起業という選択肢はとりにくい。住宅ローンは60歳までに完済しておくか、定年時に退職金以外の貯蓄から支払えるような資産状況にしておく必要があるだろう。

 また、住宅ローン以外に、子供の大学の授業料や生活費の負担が60歳以降も生じるのであれば、同様に資金繰りの目処を定年までにつけておく必要があろう。 

②退職金以外に、まとまった額の貯蓄を用意しておく

 60歳の定年時から年金が受給可能な65歳までの5年間は結構長い。

5年間もあれば、その間に、住宅のリフォーム・修繕、クルマの買い替え、家具・家電等の耐久消費財の買い替えといった、それなりの金額の支出が発生する。

 将来の年金生活のことを考えると、虎の子の退職金は手をつけずに残しておきたい。

そう考えると、退職金以外に数百万円程度の余裕資金は別途貯めておきたい。

 これは短期間で貯めることは難しいので、50歳を過ぎた時点からコツコツと準備をしておく必要があるだろう。

 もちろん、退職金をこういった費用に充てるという選択肢もあるが、そうすると、心理的な余裕が無くなり、せっかくの自由な時間を享受することが出来ない。また、自由な時間を享受するためには、旅行や趣味などに使えるお金も欲しい。そう考えると、経済的にカツカツであれば十分楽しめいので、ある程度の資金的余裕がある状態にしておくことが望ましいと言えよう。 

③月に20万円程度、稼げる手段を持つ

 上記①②の、住宅ローン、子供の教育費、リフォーム・車・耐久消費財等に要する費用に対応できたとしても、それだけだと不十分である。

 月々の生活費を捻出できないと、退職金を年金生活前に食い潰してしまうことになり、安心した年金生活が不安になる。

 そこで、アルバイト、副業(仕事を完全に止めると副業とは言わないが)収入、投資信託・株・債券からの金融収益等を合わせて、月に20数万円位は何とかしたいところである。 

それ以上に大切なことは、明確なやりたいことを持つこと

 上記の3つの条件は、50代から準備すると特別難しいわけではないと思う。

相続でそれなりの金額を得ると余裕であるし、多額の住宅ローンや子供の教育費が残ならいのであれば、数百万円程度の貯蓄であれば50代から準備すると十分達成可能である。

 ただ、これらは経済的・金銭的な条件であって、それ以上に重要なのは、再雇用を選択しない代わりに、明確なやりたいことを持てるかということである。

 確かに、再雇用は居心地が悪いから、出来ることなら避けたいという考えは理解できる。

しかし、再雇用が嫌だからという理由だけでフルリタイアしてしまうと、しばらくの間は自由を享受できるかも知れないが、その先は時間を持て余すことになってしまう。

 他にやりたい仕事、研究、社会活動、趣味・娯楽という明確なものがあれば良いが、意外と、そういったものを見つけることは容易ではない。

 再雇用になると、年収は大幅減になるし、やりがいとかも減るかも知れないが、その代わり、いいように考えると、9時~5時でOKで自由時間は大幅に増えるし、予算の達成といった仕事におけるプレッシャーも大幅に減る。そうであれば、副業、研究、趣味・娯楽も、その範囲で結構楽しむ余地はあるはずだ。

 定年後に焦点を当てた楠木新さんの名著「定年後」によると、定年後には「自分の居場所」を持てるかということが、お金以上に大事なことであるという。

 仕事、NPO、大学院、地域活動と、何でもいいが、自分の「居場所」を見つけるべく、老後資金と並行して、50代のうちから準備しておく必要がありそうだ。