1.「60歳で定年退職、老後が不安な人のためのお金の話」
「定年後 お金の悩み」でGoogle検索を掛けると、一番上に出て来たのが、三菱UFJ銀行のこのサイトだ。
https://www.bk.mufg.jp/column/events/secondlife/0004.html
そもそも、今は再雇用等になるが、サラリーマンは65歳まで働けるはずなので、
「老後が不安であれば、60歳で退職しなければいいではないか」という疑問が生じてしまう。
元々の想定がツッコミところが多いのであるが、このコンテンツでは興味深い話題について触れられているので、見て行きたい。
(1)「60歳で定年退職したら、年金の支給開始までどう過ごす?」
サラリーマンの場合、厚生年金の受給開始は、65歳である。
このため、60歳で定年退職し、転職や再雇用もしないとなると、年金支給までの5年間は「退職金や貯蓄を切り崩しながら」暮らしていくことになってしまう。
もちろん、莫大な資産があれば話は別だが、そんな人はほんの一握りだ。
多くのサラリーマンは60歳で働くのを止めてしまうと、年金支給までの5年間は経済的に非常に厳しいものとなるので、仕事は辞めるべきではないし、せめてアルバイトぐらいはやった方がいいのだが、ここでは、どうしても働くのは嫌で60歳で一旦退職したいというケースを想定しているのだろう。
貯蓄で年金支給までの5年間の生活をするには、5年分の生活費に相当する金額が必要である。このコンテンツで引用されている総務省の「家計調査年報・家計収支編・二人以上世帯(2019年)」によると、高齢夫婦無職世帯の1か月の平均支出額は、約27万円ということなので、そうすると、27万円×12か月×5年間=約1,620万円必要ということになる。
60歳ともなると、夫婦の片方に相続が発生している可能性が十分あり、自分達のそれまでの貯金と合わせると、1,620万円であれば何とかなるサラリーマン世帯もありそうだ。
なお、貯金が1,620万円に満たない場合でも、年金の繰り上げ受給という手もある。
しかし、5年間も前倒しで需給するとなると、大幅なディスカウントを余儀なくされる。
したがって、教科書的には、これはやってはいけない悪手と思われるのだが、ディスカウント率が気になるところである。
私はこのあたり全く詳しく無いので、「年金繰り上げ支給 減額率」で検索を掛けると、日本年金機構のこの記事が見つかった。
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-01.html#cms01
これによると、年金の支給額は24~30%も減額されてしまう。
三菱UFJ銀行の、この記事でも年金の繰り上げ支給については触れられていないで、基本的にはおすすめできないということではないだろうか?
(2)退職金で生活費はまかなえる?
貯金は1,600万円も無いし、年金の繰り上げ支給は出来ればやりたくない。
そうなると、65歳までは退職金を使って生活するという方法がある。
もちろん、65歳までの5年間を退職金で生活すると、65歳時点で、虎の子の退職金が枯渇してしまい、そこから先の長い老後を想像すると不安になってします。
こちらも、やるべきではなさそうであるが、一応、想定とか好奇心という視点で、この三菱UFJ銀行の記事を読んでみる。
そうすると、日本経済団体連合会の「退職金・年金に関する実態調査結果(2018年)」によると、大卒で38年間勤務した場合、60歳の定年時に受け取れる退職金の平均額は、
約2,256万円ということである。
そうすると、何と、60歳で貯金も無いのに仕事を辞めてしまったとしても、大企業勤務で大卒であれば、65歳まで生活していけるということである。
退職金のパワーの凄さを感じることができる。
もちろん、60歳で貯金も大して無い世帯が、65歳までに退職金を食い潰してしまうと、そこから先に資金不足に陥りそうなので、やるべきではないだろう。
ただ、65歳まで退職金に手を付けずにキープすることができたら、非常に心強い老後資金となることがうかがえる。
(3)60歳以降も働き続けるメリット・デメリットは?
60歳以降も働き付けるメリットは、その分経済的に楽になる。
また、全くの無職になるよりも、社会との接点、自分の居場所という重要なメリットもある。
デメリットは、働くのが嫌であれば、やりたくないことを続けなければならないことであり、また、やりたいことがあれば、自由な時間が十分得られないといったところであろうか?
そんなの当たり前ではないかと思ったが、この三菱UFJ銀行は、何か小難しいことを書いてある。60歳を過ぎて働く場合の、年金制度等に関するメリットとデメリットのようだ。
「高年齢雇用継続給付金」、「学生時代の年金未納分を穴埋めできる」、「老後の厚生年金を増やす方法とは?」、「在職老齢年金に注意しよう」といったことが、ここでは簡単に紹介されている。興味がある人は、調べてみればいいだろう。
(4)定年後の生活に備えるために、今できること
「お金に不安があるにも関わらず、60歳という年金支給前に定年退職してしまう」という不自然なケースを設定した理由が、ここまで読み進めて行くと、ようやく判明する。
「せっかくのセカンドライフを、お金のことで悩みながら過ごすのは勿体ないですよね。ゆとりある老後のためには、早いうちから資金計画を立てておきましょう」と言って、資産運用を早速始めましょうという風に誘導するのである。(もちろん、そこまで露骨には書いていないが…)
ここでの「できること」の1つ目は、「60歳の定年退職後も働く」という極めて当たり前の話である。お金に不安があり、それが気になるなら、嫌でも働くしかないというのは、50代、40代と同じである。
2つ目が、三菱UFJ銀行の最も伝えたい点で、「資産運用で老後の生活に備える」ということである。iDeCoとつみたてNISAが取り上げられているが、まあ、定年準備の一環で、可能な範囲で積立投資を始めるのは何ら問題はなく、この点は三菱UFJ銀行に賛成である。
2.それでは、60歳を過ぎてから、何時まで働き続ければいいのか?
再雇用が面白く無いのは理解できるが…
お金に関する老後の不安があるのであれば、65歳まで目一杯働いた方がいいし、65歳を過ぎてもアルバイトを出来る範囲でした方がいい。
そもそも、お金はいくらあっても困るものではない。
しかし、現実的には、そうとも言い切れない。
自分が好きな仕事、やりたい仕事であれば問題無いが、サラリーマンの場合、60歳を過ぎれば、そういった仕事を続けることは難しい。
大企業の場合、60歳になっても、再雇用で65歳まで働ける制度となっている会社が結構多いと思う。ただ、この再雇用という制度は曲者で、年収は現役時代の半分は当たり前、下手をすれば1/3というケースもあるようだ。
そうなると、大企業のサラリーマンで現役時代は年収1000万円超えであっても、再雇用になると500万とか350万円に大幅減となってしまう。
それだけでなく、ステータスも、契約社員のような感じでカッコいいタイトルはもらえず、部下もいない。そうなると、働くモチベーションは大幅に低下してしまう。このため、「再雇用よりも起業をした方がいい」ということを説く、定年生活解説本もある。
ただ、早まらない方がいい。
私も、「不本意な再雇用ならば、お気楽にバイトをした方が楽しい、東京都の最低賃金は時給1,163円(令和6年10月時点)なのでサラリーマンとしての実績や特技のある自分であれば時給2000円のバイトくらいすぐに見つかるだろう」、と考えていた。
しかし、労働マーケットは、そんなに高齢者には優しくない。
例えば、バイトルで「時給2000円以上」で検索をかけてみると、テレアポ営業か、フロアレディのオンパレード(「60代」で検索をしたのだが…)。
そんなはずはないと思い、Indeedで検索をすると、時給2千円の仕事なんて出てこない。
飲食店系の夜勤でも、時給は1700円強のものしか見つからない。
ここで気を取り直して、まず「職種」に拘らないと高単価のバイトは見つからないと考え、職種で検索できるタウンワークのサイトをいじくってみる。「職種」を「金融・財務・会計」と「法務・法律」あたりにチェックして検索すると、「お探しの条件に該当する求人情報が見つかりませんでした。」との回答が…
それでは、時給2千円は行かないかも知れないが、塾講師はどうかと検索すると、時給は良くて1,450~1,700円であった。
最低賃金が1,163円だからと言っても、時給2000円のアルバイトは簡単には見つからないのである。
それでは、すぐに見つかる時給1,200円の仕事だと、月にどれくらい稼げるのか?
一日8時間、月20日ペースでフルにバイトをしても、1,200円×8時間×20日=19万2千円。年換算すると、230万4千円にしかならない。年収350万円の再雇用の方が遥かに好条件なのである。
「とりあえずは再雇用を受けるしかないのだ…」と思うようになった。
それでも再雇用を希望しないケースとは?
上記の様に、経済的、金銭的に考えると、特殊な技能やコネを駆使して良い転職先を見付けたり、現役時代から副業が得意でそれを強化できるようなレアなケースを除くと、再雇用は断らない方が良さそうだ。
それでも、再雇用を希望しないケースがあるとすれば、仕事か趣味か、よほど明確にやりたいことがあるような場合であろう。
少なくとも、何となく「つまらなそうだから」「面倒くさそうだから」という軽いノリで断るべきではないだろう。
とは言え、再雇用でも将来の生活の目処が立てば途中で辞めることも可能
何かと評判が良くない再雇用制度であるが、上述の通り、一旦は受けた方がいいだろう。
しかし、それは65歳まで目一杯続けなければならないというわけではない。
ある程度、65歳からの生活の目処が立てば、何時でも途中で辞めていいのである。
そのためには、積立を50代の定年準備の段階からコツコツ続けるとか、副業を始めてみて定年後のどこかのタイミングで「定年ひとり起業」を始めるといった準備が必要であろう。
そういうわけで、私も決して若くは無いが、なるべく早いタイミングで積立投資や副業を頑張ろうと思った次第である。