「定年」は、その前後で生活が激変する、人生の重大イベントである
「定年」というのは、その前後で日々の生活が激変する、重要な人生の節目である。
役職定年⇒再雇用⇒フルリタイアというプロセスを辿ると、徐々に定年後の生活に近づくようにも見えるが、週の半分以上を通勤する再雇用の生活と、平日・休日を問わず、朝から完全な自由時間になる定年後とでは、日々の生活は全く異なる。
再雇用を経ずに、60歳時点でフルリタイアをしてしまうと、それ以上の激変度だろう。
しかし、誰もが十分な定年準備を行うわけではない?
定年というのは、実は非常に大きな人生の節目であるのだが、大学受験や就活とは異なり、早くから周到な準備をする人は必ずしも多くない気がするが、どうだろうか?
その理由としては、テストが無く、また、その準備をやらざるを得ないような状況に無いことが挙げられる。
大学入試や就職については、基本的に競争試験であるので、早い段階から準備をする必要がある。そして、「自分は入試や就職はしない」と言った回避策を選択することが事実上難しいと言えるだろう。
また、大学入試や就職の場合は、可視化される「結果」が生じるものである。
どこの大学に合格・進学したか、就職だとどの企業から内定を取りどこに就職したかという「結果」がある。
他方、定年後の場合は、事前に周到な準備をしたかどうかに関わらず、定年直後の状況がスコアリングされることは無い。
しかし、定年に向けて十分な準備が出来たか否かで、その後の生活の充実度は違ってくる可能性が高い。しかも、定年後の人生も、かなりの長い時間である。「終わりよければ全て良し」ということで、定年後の人生も充実したものにすることが望ましい。
そこで、定年準備を十分に行わなかった場合の問題点について、今回は考えてみたい。
定年準備が不十分だと困ること ①老後資金が足りない可能性
定年後については、お金の心配はそれほどする必要が無いという意見もあるが、定年退職した人達のブログ、YouTube等のコンテンツを見てみると、やはりお金の問題は定年後の重要事項であるようだ。
収入が大幅に減少するし、家のリフォーム・車や耐久消費財の買い替え等の出費は避けられないし、自分自身の医療費・介護費用等の不測の大きな支出が生じる可能性もある。
そして、現役時代と違って、「お金が足りない」と定年後に気がついたとしても、そこからカバーすることは難しい。
十分な老後資金を貯めるには、サラリーマンの場合、コツコツ時間をかけて貯めるしかないので、ある程度早い段階から準備を始めないと、時間が足りなくなる。
また、そのためには金融リテラシーが必要になって来るが、この手の知識・スキルを短期間で詰め込むのも難しい。定年後に慌てて、投資だ、運用だとなると、金融機関の言いなりで変な金融商品をつかまされ、大損することにもなりかねない。
定年準備が不十分だと困ること ②自分の居場所が見つからない
定年後、お金以上に重要な問題は「自分の居場所が無いこと」と言われている。
「自分の居場所」というのは抽象的な表現であるが、具体的には、仕事(アルバイト、ひとり起業等)、NPO・ボランティア、学問・研究、地域活動等である。
現役時代の「会社」と同様に、自分が輝けるとまでは行かなくても、それなりに自分自身が活躍できる、社会との接点ということだろうか。
「自分の居場所」は、現役時代のように、いくら稼がないといけないというプレッシャーは無いし、そもそも、NPOとか地域活動のように収入を得ることが目的でなくても構わない。
ただ、周りからの評価ではなく、自分自身が納得して、それなりに楽しめる場所である必要がある。
もちろん、「自分の居場所」を考えないまま定年を迎えたところで、生活自体に困ることはない。しかし、せっかく、ようやく完全に自由な時間を得ることが出来たので、定年後の時間を充実させないと勿体ない。
定年後に焦点を当てた名著「定年後」(楠木新著)によると、定年後も輝いている人達の典型的な例として、自分がやりたい仕事をしている人が挙げられており、私の場合は「ひとり起業」をやってみたいと思っている。もちろん、「起業」といっても、借入、オフィス、仕入れ等を伴わない、ネットだけで完結できるビジネスであり、それによる経済的なリスクを伴わないものである。
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784121024312
せいぜい月に10万円程度の収益を目標とした小さなネットビジネスであっても、コンテンツを作って、フォロワーを増やして行く必要があるので、何年も前から準備をすることが求められる。
定年準備が不十分だと困ること ③趣味・娯楽が見つからない
上述の「老後資金」や「自分自身の居場所」とは違って、趣味・娯楽については、周到な準備をしなくても、やりたいことをやるだけではと思われるかも知れない。
しかし、趣味・娯楽であっても、自分が本当に楽しめるものを見つけるのは意外と簡単ではない。それは、いろいろと実際に試してみる必要があるからである。
そして、年を取れば取るほど、新しいことを始めるのが億劫になるので、頭の中で、「陶芸を始めてみよう」、「ソロキャンプを始めてみよう」、「公開講座等で日本史を勉強しよう」と思っても、行動に移せないまま何もしないで時間だけ過ぎていくリスクがある。
例えば、「読書」についても、読んでみたい本を抽出したり、現役時代のうちに、新しいジャンルを開拓しておかないと読書の幅は簡単に拡げられないかも知れない。私の場合は、ミステリーしか読んで来なかったので、定年後を扱った小説、直木賞受賞作で特に話題になったもの、本屋大賞を取った話題作等、いろいろ試してみて、定年後にじっくりと読んでみたいと思われる本の幅が拡がった。
現役時代から、いろいろな趣味に挑戦して、合わないものは捨て、本当にやりたいもの、ワクワクできる娯楽を見つけておくと、定年後のモチベーションにもなるだろう。
以上の様に、充実した定年後を送るためには、いろいろと準備をしなければならないことは結構多い。50代後半になっていても構わないので、気がついた段階で、定年後に向けた準備活動を始めることがお勧めだ。