定年後とお金、老後資金捻出のための節約とその心構え

1.老後資金の捻出における節約の役割

 サラリーマンは自営業者と違って、「定年」がある。

「定年」には、役職定年、再雇用に切り替わるタイミングでの定年、完全に会社で働くことを終える定年と、いろいろ段階はあるが、いずれにせよ現状の年収をキープするのは厳しい。

 そこで、老後資金としての貯えを作っておきたいところだが、老後資金の捻出においては、「節約」が重要な役割を占める。

 何故なら、サラリーマンは50代になると、年収の維持・アップが可能な転職は難しく、また、社内での昇格を通じた年収アップも期待できないからだ。

 そうなると、現状の給与や賞与レベルから、新たに老後資金を捻出することになるのだが、まだ住宅ローンや教育費が残っていたりすると、月に積立投資に回せるような資金は数万円くらいじゃないだろうか?

 そこで、「節約」によって、月にあと1万円とか2万円でも、積立投資の資金を捻出できると随分違って来る。月2万円を3万円、3万円を5万円とすることができると、その効果は長期で効いてくる。

 例えば、月5万円を積立投資し、想定利回りが5%とすると、10年後には776万円となる。

退職金に加え、この積立投資による金額が加わると、老後の余裕度は違って来る。

 もう1つ、50代のサラリーマンが節約する意味は、老後の生活に向けての生活費のダウンサイジングの良い練習となることだ。

 大企業のサラリーマンであれば、企業年金の上乗せ分が期待できる場合があるが、それでも現役時代よりも大幅に月収は減る。再雇用の段階でも月収は大幅に減る。

 そうなると、月々の生活費、支出はダウンサイジングせざるを得ないのだが、これは、急にできるものではないし、やろうとしてもストレスが大きい。

 そこで、50代のうちから、家計全般の見直しを行い、月数万円レベルでも「節約」によって浮かせることが出来ると、老後の生活費のダウンサイジングにも移行し易いと考えられる。 

2.節約を実行するに当たっての心構え

 節約に関する情報は、本でもウェブでも豊富に存在し、非常に多くの方法論が紹介されている。ただ、節約で大事なのは方法論よりも、如何に「実行」できるかである。

 大雑把な節約の方法は極めて簡単で、「携帯代、生命保険代、自動車関連費用、交際費、外食代等」から月あたり数万円程度捻出できればOKである。

難しい税金とか法律とか投資理論といった知識は不要である。

 しかし、それはダイエット(食べるものを減らして、運動量を増やすだけ)と同様で、わかっていても「実行」できない点が問題なのである。

 何故「実行」できないかと言うと、それは明らかで、ダイエットや節約の「実行」には、「ストレス」や「苦痛」を伴うことが多いからだ。

 もっとも、「ストレス」とか「苦痛」は主観的な要素が多く、

自分自身が納得できたり、モチベーションを高めたり、更にはゲーム感覚で楽しめるようになると、その問題は解決可能である。

 このため、節約の「実行」においては、自分自身を納得させられる「心構え」が重要になるのである。

 実際、生活費の8割を貯蓄に回しているような節約名人の本を見ても、心構えとかそのフィロソフィーに関する記載がかなり多い点が確認できる。

 そこで、節約名人の本やウェブ情報を基に、節約実行にあたっての心構えを、以下整理してみた。 

  • 細く長く

 まずはこれである。

少額でもいいので長く続けてこそ、節約の効果は出る。

焦って、無理をしてすぐに止めてしまうと元も子もない。

従って、節約を始めるに当たっては、決して無理な計画を立てることなく、また、途中で厳しいと思えば緩めることが必要である。この点はダイエットと同じではないだろうか?

 この「細く長く」は何十年もサラリーマン生活を続けている人は、得意な人が結構多いのではないかと思われる。 

  • 目的の明確化

 節約の実行に当たっては、ストレスや苦痛が生じるため、モチベーションを高めることが必要であり、そのためには目的を明確化しておきたい。

 「老後資金の形成」という目的においては、それをもう一歩進めて、具体的な目標金額とかその使途まで踏み込んでおきたい。

 例えば、「既存の月の積立投資資金3万円に、節約を頑張って2万円浮かせて、月の積立投資額を5万円に増やす。そしてそれを、想定利回り5万円で運用できたとすると、10年後には776万円になる。この資金は、家の補修関連費500万円、旅行等のレジャー費用200万円、残りの70数万円は予備費とできる。そうなると、退職金、相続、それまでの貯金を合わせた5000万円は手つかずでキープ出来てかなりのゆとりができる」、といった具合である。

 このように、節約を頑張ったことによるリターンが可視化されると、節約を続けるモチベーションが湧き上がる。

 ・ゲーム感覚、節約のエンタメ化

 ある程度節約が軌道に乗り、ゲーム感覚、エンタメ感覚で節約を遂行できるようになるとしめたものである。

 例えば、節約の月の目標を最初は1.5万円でスタートし、それが3カ月続くと、1.8万円に、さらに3カ月続くと2万円、さらに3カ月続くと2.2万円、と言う風に目標金額を一定の条件下、少しずつ上げていくといった方法である。

 そして、ボーナスから5万円節約できれば、1万円は飲んだり、食べたり、ちょっとした贅沢をするといったインセンティブを付ける方法もある。

 実はこれは、健康やダイエット目的のジョギングなどもそうで、タイムを計ったり、マラソン大会への出場を目標に取り入れる等、何らかの達成感に満足できる様になれば、苦痛やストレスから解放され、どんどん良い方向に進んで行くというアイデアである。 

  • お金のかからない娯楽をいくつか始めてみる

 「お金のかからない」と言っても、お金が出る話で、何故、節約にそれが関係するのかと思われるかも知れない。

 しかし、これは長期的、広い視点で見ると、効いてくる話である。

また、定年後には趣味・娯楽が現役時代よりも重要になるので、その予行演習という意味合いもある。

 「お金のかからない趣味」とは、ワンコインでブックオフで文庫本を数冊買うとか、地下鉄とか普段使用している私鉄の駅探索、B級グルメ店の訪問といった、千円程度で楽しめる娯楽である。

 これを始めると、非常に少ない予算で、楽しめることができるので、それに充てる時間ができる。そうなると、無駄な時間が減り、暇つぶしのために意味も無く、喫茶店、スポーツジムに通ったりという無用な出費の防止に繋がるからである。

 また、節約とは直接関係無いが、定年後はとにかく時間ができるので、それを上手く活用する娯楽をもっておきたいところである。 

  • 稼ぐこと、稼ぎ続けること

 最後に一番重要なことはこれである。

「節約」なのに「稼ぐこと」とはどういうことかであるが、これは「可能な範囲で」なるべく働き続ける(再雇用含む)、副業・アルバイトをやってみるという意味である。

 例えば、再雇用を取ってみると、特にやりたいことがあるわけでも無いのに、「何となく」つまらなそうだから辞めたりしないことである。

 また、役職定年とか再雇用になった際に、副業を始めてみるというのも重要である。

 これは上記④にも関連するが、働けば当然それに要する時間が出来るので、無駄な時間・退屈な時間を減らすことに繋がる訳である。暇をつぶしたり、それによるストレスを解消するためにパチンコに行ったり、無駄な買い物をするというのはよくある話である。働けば、そういった後ろ向きな出費を減らすことに繋がるのである。

 ただ、定年後において、お金以上に重要なのは「自分の居場所を作ること」だという考え方がある。或いは、「孤独」を回避することという意見もある。

 仕事を継続すれば、何らかの自分の「居場所」は確保されるし、社会的なつながりが出来る。

また、金額的なインパクトは小さかったとしても、自分なりの副業が出来れば、定年後の大きな生きがい、新たな「居場所」になり得る。

 そういう意味で、「攻撃は最大の防御」的な発想かも知れないが、働くことは最大の節約効果に繋がるということは意識しても損は無いだろう。