60歳定年サラリーマンが「キッチンカー」開業も、わずか8カ月で「赤字500万円」突破で断念した話

大学卒業時点から、起業に憧れていた

 Googleで見つけた、定年後に起業して失敗したケース。

この方、私と同年代だと思われるが、起業については大学卒業時点から憧れていたというのは、結構意外な感じがした。何故なら、当時(おそらく1980年代後半)はネットなど全くない時代で、お手軽に起業が出来ることは無かった。

 もっとも、私たちの代が社会人になる前の昭和の時代も、「脱サラ」(当時は「起業」のことをこう表現していた気がする)と言って、時々ベンチャーブームが巻き起こり、こういうものに憧れていた方なのかも知れない。

https://news.yahoo.co.jp/articles/ef3494550f3c699dd7fa1839675dec06a25a63e0 

退職金2,200万円のうち、1,000万円を企業の軍資金に

 この方は、大学卒業時点から「いつかは起業したい」と考えていたようだが、

35年の住宅ローンや2人の子供の教育費という足かせがあり、現役サラリーマン時代には起業に踏み切れなかったという。

 しかし、住宅ローンと教育費の支払い時期も過ぎ、定年退職の段階で遂に起業に挑戦することにした。

 そして、これが問題だと思われるのであるが、退職金2,200万円のうち、1,000万円を起業の軍資金にすることにしたのだという。これは退職金の半分近いので、軍資金としては大きすぎる気がするが、奥さんの不安も強引に押し切って、キッチンカー開業を実行したようである。

 何故「キッチンカー」かと言うと、サラリーマン時代にランチで利用していた様で、ユーザー視点からの起業のようである。

 そして、過疎化や高齢化の解決策とか、コロナによるテイクアウト型飲食店への注目度の高まりといった外部環境も追い風になると判断したらしい。

 キッチンカーの商品は、「こだわりのコーヒー」と「ボリュームたっぷりのサンドイッチ」であった。

 この方曰く、「事業計画は完璧だった」ということだが、他の業者との競争や商品による差別化も奏功せず、1日の売上は最低でも4万円を見込んでいたそうだが、1万円に満たないこともしばしばだった。

 また、長時間の立ち仕事であるので、体力的な負担も高く、サラリーマン時代はデスクワーク中心だった彼にとっては厳しいものだったという。

 ランニングコストは月65万円位かかるが、毎月50万円以上の赤字を垂れ流し、開業から8か月で累積赤字が500万円に達した段階で、経済的にも精神的にも限界となり、廃業するに至ったという。 

何が敗因だったのか?

 まあ、我々が事後的にこのケースを見ると、敗因はいくつでも思いつくであろう。

そもそも、何故キッチンカーかというところが疑問である。ホリエモンの、起業するには「小資本、在庫を持たない、利益率が高い、毎月の定期収入が見込める」という4原則が全く考慮されていない。

 とは言え、定年後には「やりたいことをやる」という夢を叶えたかったのだろうから、キッチンカー以外には思いつかなかったのかも知れないが。

 それから、いきなりキッチンカーでの開業に踏み切る前に、焦らずに、どこか成功しているキッチンカーでバイトの様な形で手伝わせてもらうとか、それが難しくても、評判のサンドイッチ屋等で修業をすべきであったろう。

 そうすれば、競合の存在と対処法、商品(サンドイッチとコーヒー)の磨き上げ、より精緻な事業計画ができたと思われる。

 もちろん、彼は起業をしたくても我慢して長年サラリーマンを続けて来たので、すぐにでも夢を実現したかったのかも知れないが、サラリーマン時代に学んだビジネスの基本をこの起業においても活かすべきだったのだろう。

 それにしても、月のランニングコストの65万円とか、見込み売上4万円/日あたりの読みも相当甘い気がするが… 

とは言え、定年後にやりたい仕事をやるのは大事

 ここでは、定年後の起業の失敗ケースが紹介されているが、定年後にやりたい仕事に挑戦すること自体は悪くない。

 せっかくの人生だし、今まで長年サラリーマン生活を頑張って来たのだから、やりたい仕事をやってみることは非常に貴重な経験である。

 やりたい仕事に挑戦することによって、起業資金を失うリスクはあるが、納得感を持てれば、お金には代えられない価値もあるかも知れない。

 ただ、注意しなければならないのはリスク管理である。

定年後は、良い条件での転職はほぼ無理なので、挽回が効かない。

このため、失敗してもその後も何とか生活していける範囲でやる必要がある。

 そう考えると、ある程度、定年後の起業はつぎ込む資金額を限定すべきだし、それに向けた定年前からの準備も必要である。

 こういったリスク管理の感覚は、サラリーマン時代にも培われているのではないかと思われる。定年後の起業においても、サラリーマン生活で学んだ知識や経験を広く活かしたいところである。

 そういう訳で、定年後の起業については、オフィス、従業員、在庫、借入無しで可能なネット系ビジネスが無難な気がするが、どうだろうか?