平均的なサラリーマン世帯の年金受給額は約23万円のようだが…
平均的なサラリーマン世帯が受け取ることが出来る年金は1月あたり約23万円程度という。
https://hoken.kakaku.com/fp/article/pension/
これについては、「月23万円でやっていける」という経済評論家の意見もあるが、無理だろうと考えるサラリーマンもいるのではないだろうか?
というのは、月23万円というのは、メガバンクの初任給より少ない額である。
しかも、ボーナスも無い。
https://toyokeizai.net/articles/-/684729
もう何十年も前の話になるが、自分が新入社員の時、お金の余裕なんて全然無かったことを記憶している。そして、その時は当然一人暮らしである。
夫婦二人で、新入社員よりも少ない月収でやっていけるわけがないと感じる人は私だけではないだろう。
「目標代替率」という考え方でモヤモヤ解消
定年退職後の年金生活について情報収集している際に、本当に月23万円で夫婦二人がやっていけるのだろうかと、ずっとモヤモヤしていたが、ある本に出合ってその悩みが解消された。
その本は、「老後の資産形成をゼッタイ始める!」である。
著者の野尻哲史さんは、世界で最大手運用会社の1つであるフィデリティに勤務され、フィデリティ退職・投資教育研究所長を長年務められた方だ。金融審議会市場ワーキング・グループ委員もされていた方で、まさにこの手の話の専門家だ。
本書によると、退職後の生活資金を推計する方法として、世界的に使われている基準があり、「目標代替率」(Target Replacement Rate)というそうだ。
この目標代替率は、退職後に現役世代の何割位の収入で生活するかを表すもので、野尻さんによると、日本の場合、「ざっくり7割程度」と考えればいいということだ。
そうすると、現役時代、高収入サラリーマンで月収70万円位だった人は、退職後は約50万円、月収100万円以上の高給エリートサラリーマンは、退職後も70万円以上が求められるということになる。
要は、「退職後の生活水準は現役時代の年収に大きく依存している」という、ごくごく当たり前の話である。
月に23万円でやっていけるというのは平均的な世帯の話であって、現役時代の生活費が高い世帯は、これでやっていくのは難しいということだ。人間、急に行動や習慣を変えることはできないので、現役時代が高給で生活費も高いサラリーマン世帯は、老後に必要な資金を多めに見積もる必要があるということだ。
なお、野尻哲史さんの本は、やや上級者向きかも知れないが、専門的で非常に濃い無い様なので、高給サラリーマンにはお勧めである。
月収100万円のサラリーマンのシミュレーション
目標代替率が7割と言うことは、現役時代の生活費から3割削るということだ。
それは、どういうイメージになるのか、月収100万円(手取り約70万円)の高給サラリーマンを例に考えてみよう。
月収100万円の生活費の内訳については、このサイトがわかりやすかったので引用する。
https://ten-navi.com/hacks/article-354-29055
この考え方は、「家賃・光熱費」が手取りの30%、「食費・生活雑貨」が手取りの15%、
「娯楽費・交際費」が手取りの15%、「貯蓄」が25%、「その他」が15%と支出の割合を想定する。月収100万(手取り70万円)のケースで、このルールに従い、書き出すとこんな感じである。
- 家賃・光熱費 21万円(70万円×30%)
- 食費・生活費 10万5千円(70万円×15%)
- 娯楽費・交際費 10万5千円(70万円×15%)
- 貯蓄 17万5千円(70万円×25%)
- その他 10万5千円(70万円×15%)
この場合、気になるのが家賃である。
退職後も21万円(除く光熱費)の家賃を払い続けるのは非常に厳しい。
他方、定年時点には住宅ローンが払い終えるならば、この3割が無くなるので、それだけで目標代替率7割は達成である。
もっとも、住宅ローンを完済しても、その後に家屋修繕・リフォーム代等が発生するから、ここから30%を全部減らせるとは考えない方がいい。支出の1割位は想定しておいた方がいいだろう。
他方、貯蓄と言うのは、退職後の生活に向けてのものであろうから、手取りの25%も貯めなくてもいいだろう。とは言え、お金はあって困ることは無いし、積立投資の習慣は続けたいので、5~10%位は可能であれば残しておきたい。
なお、カギとなるのが「その他」の15%であるが、これは教育費等が想定されるが、退職後にはさすがに不要だろうから、ここからも浮かせることができそうだ。
家賃(住宅ローン)がどうなるかが重要だが、退職後に現役時代の支出を3割削るというのは何とかなりそうな気がする。
問題は、目標代替率に相当する月収が得られるか
上記より、現役時代の月収が100万円(手取り70万円)の高給サラリーマンが、目標代替率7割と想定して、手取り50万円位に生活費を収めるのは何とかできそうである。
ただ、問題は、目標代替率7割の場合の月収(手取り50万円)を得ることができるかだ。
現役時代に月収100万円も稼げるサラリーマンの会社は、企業年金も手厚いだろうし、もらえる公的年金も標準世帯の23万円よりは多いだろう。とは言え、企業年金・公的年金合わせてせいぜい30万円くらいだろう。
そうなると、残りの20万円をどうするかだが、それは定年後もアルバイトなり、ひとり起業でも頑張って稼ぐか、あとは、保有不動産・有価証券からの資産収益が頼りとなる。
仮に、全て有価証券からの収益で賄うとした場合、利回り4%と想定すると、必要な保有金融資産額は、20万円×12か月÷4%=6000万円となる。
定年退職時の貯金額が1000万円、退職金が3000万円、相続で2000万円を受け取れたとすると、何とかなりそうだ。
しかし、保有金融資産の全額をリスク資産に振り向けるのは難しいし、想定利回り4%というのも決して楽ではない。
そう考えると、金融資産1億円くらいを目標に貯めないと、この生活は難しいということになる。
或いは、それが厳しいとなると、65歳を過ぎても頑張って、20万円を稼ぐしかない。
アルバイトでも稼げなくはない金額だが、65歳でフルタイムでバイトをするのは体力的にキツイから、顧問でも何でも雇ってくれるところを探すか、何らかのスキルと集客力で自分のビジネスで対応できるよう50代から準備が必要となる。
まとめ:高給サラリーマンは月に23万円でも大丈夫とは言いにくい
標準世帯を想定した、退職後の月収23万円で足りるか、足りないかというゼロイチの議論をしても仕方が無い。その答えは世帯によって、足りる家庭もあれば、足りない家庭もあるということだ。
ただ、「目標代替率」という考え方があるように、老後の生活は現役時代の生活費に比例しがちである。従って、高給サラリーマンでそれなりの生活をしていた世帯は、退職後の生活費も相応に高くなると考えた方が堅いということだ。
その場合、企業年金・公的年金だけでは足りないので、その不足分は資産収益か、仕事からの収入で補充することになる。もちろん、資産収益と労働収入の併用でも構わない。
65歳を過ぎてから稼ぐのは現役時代よりも遥かにハードルが高いし、金融資産を増やして行くには時間がかかるので、いずれにしても、50代から準備をキッチリ始めておく必要がある。