50代からの老後資金の形成と、相続財産の使い道
以下はかなり古い統計で申し訳が無いが、年代別に見ると、50代の金融資産保有割合は結構高い。
https://www.cao.go.jp/zei-cho/shimon/27zen28kai7.pdf
その理由としては、退職金の他、相続によって財産を引き継げた人達が結構多いことが考えられる。
サラリーマンの場合、退職金や企業年金があるので、老後資金の形成をしている場合に、別途相続財産を受け取ることができるならば、かなりの余裕が生じる可能性がある。
それは、充実した定年後の生活を送る上で大切な原資となるので、相続財産については、しっかりとした使い方をしたいものである。
まずは、資産と負債を全般的に見てみる
相続財産の使い道を考える上で、まずは、資産と負債を全般的に見た上で、いろいろとチェックをしていきたい。
まずは気になるのが負債である。
サラリーマンの場合、事業用の借入というのが無いので、住宅ローンの残債が最大の負債となる人が多いのではないだろうか?
また、現時点では負債では無いが、将来の子供の教育費や、家のリフォーム・修繕費用、クルマの買い替え費用、家具や電気製品の買い替え費用などもチェックしておきたい。
その上で、既存の貯蓄額を踏まえた上で、住宅ローンの期限前返済や、将来の教育費等の出費に、どの程度、相続財産を充てるのかを考えることになる。
住宅ローンの返済は必ずしも一気に行う必要は無く、金利水準や、それによって浮くこととなる月々の住宅ローン返済額をどのように使うかを検討した上で、バランスの良い資産の状況になるよう対応したい。
特に、現役のうちは、住宅ローンの支払い能力はあるので、期限前返済によって生じた実質的な手取りの増分を無駄使いしないように留意する必要があるだろう。
なお、相続財産を住宅ローンの(一部)充当や将来の出費、そして残りを全額老後資金の運用に充てるのでは、面白味が無いかも知れない。従って、ある程度、趣味・娯楽に使ってみてもいいだろう。
相続によって、3千万円を資産運用に充当できるようになった場合の考え方
「3千万円」という数字には特に意味が無いので、これを「1千万円」「2千万円」「5千万円」と置き換えてもらっても構わない。相続によって、ある程度まとまった金額を運用に使えるようにケースを具体的にイメージ出来ればいい。
①元本確保の資産とリスク資産とのバランスを考える
まず、既存の金融資産と相続で得た財産について、元本が確保されている資産と、そうではないリスク資産とのバランスをどのように取るのかを考える必要がある。
例えば、既存の金融資産(既に開始している老後資金のための投資額が500万円とする)が2千万円、相続によって得た金額が3千万円としよう。
そうすると、この5千万円のうち、元本が確保される預貯金・個人向け国債の額と、それ以外のリスク資産の割合を考えることになる。
1つの考え方として、半分はしっかりと元本確保型の金融商品でキープするというのがある。
その場合、既存の保有金融資産のうち元本確保型の資産1500万円と、相続財産から1千万円を預貯金や個人向け国債に充当をした、残りの2千万円を運用(リスク資産)に充当できることになる。
もちろん、もっとアグレッシブに、リスク資産の割合を高めることも可能だが、50代サラリーマンの場合は、少なくとも1/3は元本確保型の資産でキープしておきたい。
何故なら、リスク資産で損をした場合に、本業収入で取り返す可能性は高く無いからである。
もっとも、50代のサラリーマンの場合は、自分が受け取ることができる退職金の額が見えてくる。そして、退職金は元本確保がされる預貯金や個人向け国債等でしっかりキープすべきことを考えると、現時点では多少リスク資産の割合を高めにするという選択肢もあるかも知れない。
ただ、50代のサラリーマンはリスクを取って勝負が出来る年代でもないので、基本的には、半分位を安全資産でキープするのが無難かと思うが、どうだろうか?
②リスク資産のポートフォリオ
さて、相続で手にした資産のうち、リスク資産への投資額が決まった場合には、次はリスク資産のポートフォリオを考えることになる。
例えば、先ほどの、相続によって金融資産額が合計5千万円になり、そのうち、2500万円がリスク資産に投資をできるようになったケースで考えよう。
ここで考えるのは、既に始めている老後資金に向けた投資と同じ投資戦略にするのか、或いは、投資可能額が増えたことによって投資戦略を変更するのかということである。
既に老後資金形成のために、例えば、S&P500への積立投資を開始したとしよう。
これは、ある程度の長期投資(10年程度)を前提に、元本の成長を重視した投資だと考えられるところ、その路線で行きたいと考えるのであれば、相続によって新たに投資可能となった2千万円を、全額S&P500に投資をすれば良いということになる。
他方、既存の老後資金形成に向けた積立投資(この例ではS&P500)は相続を想定したものではないので、相続で得た資金は、目的を変えて、インカムゲイン重視の投資に充てるという考え方もある。もちろん、これはゼロイチの問題ではないので、例えば、2千万円のうち、1千万円は従来の投資戦略通りにS&P500に1千万円、残りの1千万円はインカムゲイン重視の投資商品に振り向けるという考えもあるだろう。
ここは重要なところであるので、今後の退職金や、定年後の働き方なども含め、資産(ストック)と収支(フロー)の両面から長期的に考えてみる必要がある。
③既存の投資資産を増額する場合
上のS&P500の積立投資を継続中のケースで、今回相続で得た投資可能資金も、S&P500に投資をしようと決めたとする。
この場合、悩むかもしれないのが、その投資方法だ。
要するに、投資可能な2千万円を一気にS&P500に投資をするのがいいのか、それとも、時間分散ということで毎月積立投資をする形にするのがいいのかだ。
この点については、一気に投資をするのが正解らしい。
既にドルコスト平均法の恩恵を受けるために積立投資をしていると、余計にそれでいいのかという疑問を持ちがちだが、理屈の上では一気に投資をする方がいいらしい。
というのは、毎月分散して投資をすることにすると、相続で得た投資資金を寝かせておく期間が長くなってしまうからだ。将来の値動きは誰にもわからないが、長期的には上がると考えているからこそリスク資産に投資をしているわけなので、お金に働いてもらう期間を長くするのが、現時点での正しい判断ということになるそうだ。
このあたりの考え方については、私は、山崎元さんの名著「難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!」を参考にした。
気になる方は、ご参照ください。
https://bunkyosha.com/books/9784866516707
④インカムゲイン重視の投資をする場合
まだ50代の間は、毎月分配型投信は出来れば避けたい…
キャピタルゲイン重視の積立投資は既にやっているので、相続で得られた追加投資資金はインカムゲイン重視の投資をするというのもアリだと思う。
ただ、その際には、まだ50代であるのであれば、まだまだ先は長いので、投資元本が棄損されるリスクの高い、毎月分配型の投資信託は出来れば避けたいところである。
(もちろん、毎月分配型の投資信託が必ず元本割れするとは限らないが…)
要は、いわゆるタコ配投信(元本の一部を原資にした行き過ぎた分配をする投信)は避けた方がいいということである。このあたりは、金融庁の監督強化によって、昔よりは状況は改善されたかも知れないが、十分留意したい点である。
それに、50代の現役サラリーマンのうちに、多くの分配金に甘えて贅沢な生活に慣れてしまうと、役職定年⇒再雇用⇒年金生活と収入が減っていく状況下、将来ストレスが溜まって行きそうなので、ある程度は自制した方がいいだろう。
4%程度のインカムゲインを追求する場合は…
インカムゲイン狙いの場合も、50代であれば先が長いので、資産の成長とインカムゲインのバランスを図りたいところである。
そうなると、期待できるインカムゲインの利回り水準は4%程度であろうか。
投資対象としては、高配当利回り型の株式ファンド、USハイイールド等の外債投資型ファンド等が候補となり得る。
それ以外の選択肢としては、今の金利水準であれば、(投資信託ではなく)外国債券そのものも候補に上がって来るかも知れない。私が2024年の夏にFPに相談に行った時に、外債の話を聞いた。但し、外債は証券会社(ネット証券でもOK)でしか購入できず、最低投資単位も結構大きく少額では投資できない場合が多い。そして、外債型の投資信託とは異なり、個別の銘柄に投資をするので分散投資が効かずデフォルトリスクも気になるところである。
従って、インカムゲイン重視で外債投資を考える際は、こういった点に留意が必要である。
私の場合は、インカムゲイン重視の投資をした
私は50代で、既に相続を行ったが、その際は既存の積立投資とは異なり、インカムゲイン重視の投資をすることとした。
その理由としては、月々の老後資金に向けた積立投資については、自分なりに頑張った金額の投資をしていることと、やはり、多少の金融収益が欲しいからである。
私の場合は、高配当型の日本株ファンド、ハイイールド債ファンド、S&P500のインデックスファンドに1/3ずつ投資をした。もっとも、S&P500のインデックスファンドは、今から考えると中途半端な気がするので、高配当型の日本株ファンドとハイイールド債ファンドに変えようかと思っているが、残念ながら評価損になってしまったので、しばらくは様子見をしようかと思っている。
もっとも、この私の選択が正しいということはなく、自分自身にフィットした投資戦略を考えて、それを実行すべきである。
まとめ:全体的なバランスと将来を見据えた投資をしたい
相続でまとまった金額を入手できるのは非常に嬉しい話で、両親に感謝である。
サラリーマンの場合は、個人事業主と比べると、退職金とか企業年金とか、老後のお金については相対的に恵まれているところがある。
そこに、まとまった金額のお金を相続できたとなると、調子に乗って、勿体ない使い方をしてしまうかも知れない。
もちろん、ある程度は趣味・娯楽に使うことは結構なのだが、大事なお金なので、短期的な浪費は避けたいところである。
やはり、現時点での資産と負債の状況を冷静に踏まえ、また、将来の収入と支出の状況も考慮し、バランスの取れた判断をするのが良いだろう。