定年後の生活費は現状の70%と想定できる根拠
定年後の生活費はいくらぐらいあれば足りるか?
生活費は、各世帯の現役時代の年収水準、保有資産の状況、居住地、ライフスタイル等によって異なるので、「○○万円あれば十分」というわけには行かない。
そこで、「70%ルール」というのがあって、定年後の生活費の目安は、現役時代の生活費に70%を掛ければいいというそうだ。これは、「生活水準を大きく変えることは難しい」ということと、「定年後は現役時代よりは生活コストを下げられる」ということが根拠となっている。
後者については、サラリーマンの場合、リタイアすると、飲み会等の交際費、スーツ代等の被服費、子供の教育費、生命保険代等の支出を抑えることが出来るということである。
もっとも、この「70%ルール」には大前提がある。
それは、定年後は収入が大幅に減少するので、生活費の現状維持は不可能であり、せめて70%に抑えることを想定しないとやっていけないということである。
定年後の生活費を現状の70%と想定するのは危険という意見
私は、定年後の生活費の「70%ルール」は十分合理的で説得力のあるものと考えていたが、FP(ファイナンシャル・プランナー)の間では、「70%ルール」は楽観的で、生活費は現状維持に近い水準を覚悟しないという意見もあるという。
その論拠は、インフレと介護保険料の高騰だという。
インフレについては、全員そのリスクを認識していると思うが、10年ぐらいのスパンで考えると、思った以上に恐ろしい問題となりそうである。年金はきっちりとインフレに連動してくれないので、インフレが継続すればするほど実質的に目減りする。我々は、この1~2年で、年あたり数%のインフレで「困った、困った」と嘆いているが、これが10年、15年単位で継続すると、本当に厳しくなりそうだ。この点については、無意識的に目を背けているのかも知れない。
もう1つの介護保険料も、じわじわ上がって来ているようだ。
私は介護保険料については特に意識をしていなかったが、こういうデータを見ると、明らかに増加傾向にある。そして、少子高齢化は不可避なので、将来の値上がりペースが緩和されると楽観しない方が良さそうだ。
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg1/291108/shiryou1-8.pdf
そう考えると、定年後は収入が大幅に減るので、「生活費の現状維持」など不可能と思われるものの、インフレの継続や社会保険の値上げを十分認識すると、「生活費を現役時代の70%に抑える」ことも難しいと考えた方がいいかも知れない。
将来のインフレや社会保険に係る支出の影響に対応する方法
将来のインフレや社会保険の支出の増加に対応しなければならないと言っても、定年後に収入を維持することは基本無理である。他方、何も手を打たないで放置すると、10年後に辛い状況に陥るリスクがある。
そこで、今のうちに出来ることとしては、節約、何らかの労働収益の確保、金融資産・収益不動産の活用といったことである。
①節約の遂行
節約については、現役のうちから始める必要がある。
退職した翌月から、一気に生活費を30%減らすということは無理である。
節約は少しずつ時間を掛けて、習慣化する必要がある。
節約を上手く実行できるかどうかのカギとなるのは、「節約の目的」を明確に意識できるかどうかだろう。「節約のための節約」となると、ストレスが溜まるだけで長続きしない。そこで、「節約によって何が得られるか」という「節約の目的」を意識して、モチベーションを上げることが必要となる。
例えば、「月○万円の節約によって、旅行が出来る」とか、「定年時点に1千万円の老後資金」が貯められるといった具合である。
節約の方法については、固定費を減らすとか、生命保険と携帯代金を減らすとか、サブスクを止めるといった情報は溢れているので、そういった知識面が問題ではない。
節約を「実行」「継続」出来るかが成否の分かれ目となるので、如何に目的を明確化して、モチベーションを持ってやれるかどうかが重要なのである。
②金融資産/収益不動産の活用
サラリーマンの場合、定年後というか、60歳を過ぎると労働によって沢山稼ぐということは期待できない。
そうなると、「資産」に働いてもらうしかない。
株、外債、投資信託からの金融収益とか、収益不動産からの賃料をどのくらい得られるかということである。
既に、今までの貯金や相続等によって相応の原資があるのなら、その原資を活用して自分に取って最適な資産ポートフォリオ追求すればいいだろう。
ただ、現時点で十分な原資が無い場合には、今から頑張って資産形成していくしかない。
そこで、重要なのが前述した節約である。例えば、現役時代の節約で浮かせた月数万円に、年2回のボーナスからも投資に振り向け、月当たり10万円を想定利回り5%で10年間運用できたなら、1,553万円の金融資産となる。
50代だと遅いと諦める必要は無く、今からでも頑張って積立投資を始めてみることは重要だ。
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/tsumitate-simulator/
③労働収益の確保
定年後のお金の問題としては、上記①の「節約」や②の「資産からの収益」が中心のようにも思われるが、労働収益を得ることも可能である。60代になるとサラリーマンとして高給を得ることは無理だとしても、アルバイトとか内職的な仕事(クラウドワーク系)によって少額を稼ぐという手もあるのだ。
実際、60代の就業率というのは思った以上に高い。
60~64歳の就業率が74%というのは、再雇用制度があるからと理解できるが、65~69歳の就業率が半分以上、そして、その比率はじわじわと増加し続けているのは驚きである。更に、70~74歳の就業率は1/3以上もある。
https://www.jili.or.jp/lifeplan/houseeconomy/1045.html
そう考えると、再雇用期間を満了したとしても、アルバイト的なものでもいいので月に数万円でも稼ぐことを考えるのは自然な話である。これについては、以下の過去記事をご参照下さい。
https://retirefphb.com/archives/82
理想的には、月5~10万円位を自分の好きな仕事、カッコ良くいうと「ひとり起業」、実質的には「ネット副業」かも知れないが、興味があるサラリーマンは50代のうちから副業として始めてみればいいだろう。
もっとも手っ取り早いのは「節約」
将来のインフレの継続や社会保険負担の増大を考えると、何らかの手を打っておきたいものだ。上記の対応策のうち、もっとも手っ取り早いのは「節約」である。始めて1か月でも数万円単位で成果を出すことは可能だ。ただ、やみくもに焦って支出カットをする必要は無く、「目的」「モチベーション」を明確化した上で、月1万円の節約でもいいので、小さく始めて少しずつ節約金額を増やして行くのがいいだろう。