老後資金1千万円を貯める方法について考えてみた

1.何故老後資金1千万円なのか? 

まとまった額の老後資金の必要性

 夫婦2人の世帯の場合、年金収入は月に23万円程度だと言われている。

https://news.yahoo.co.jp/articles/5f4dc4ead414290c1cdc6d3102a17c52c414153e 

この23万円で足りるかどうかは議論があるようだが、首都圏の場合だと、暮らしぶりにもよりが難しそうな気がする。

だからこそ、「老後資金2千万円」問題が拡がったわけで、月々の生活費を補うためにも、まとまった老後資金が必要だ。

 また、仮に月23万円で何とかやっていけたとしても、生活している限り、何らかの大きな出費が生じることがある。例えば、住宅のリフォームとか修繕代である。マンションにしても戸建てにしても、30代で購入した場合、築30年位になると外壁、水回り、無傷というわけには行かないだろう。そういった場合、少なくとも数十万~数百万円の出費が生じる訳で、それは年金収入で到底賄えるものではない。

 住宅修繕だけではなく、家具・家電といった耐久消費財の買い替えも生じるはずだが、これも年金収入だけでは対応できない。クルマが必須な地方においては、クルマの買い替え費用という大きな出費もある。

 さらに、ここ数年の急激なインフレによって、フローとストックの双方において、将来もインフレを意識せざるを得ない状況が生じている。財政に余裕が無い日本において、年金はインフレ連動といっても、現実的にはインフレをフルカバーできるほど増やしてもらえない。

 将来、インフレが継続するのか、また、インフレが継続した場合はどの程度のインフレなのかが気になるところである。ただ、私としては将来のインフレについては、あまり楽観的に考えられない。その理由としては、インフレの原因の1つに人件費の高騰があるが、少子高齢化による労働者減、働き方改革や労務面での企業に対する監督強化による労働者一人あたりの労働時間減、政治的に与野党ともに時給アップの旗を振らざるを得ない状況を考えると、将来もインフレが継続しそうである。また、グローバルで見ても、欧米、オーストラリアあたりと比べた日本の人件費の水準からも、人件費の高騰が収まる兆しは無い。

さらに、原油とか天然資源市況、または、円安が収まったとしても、企業は一度高くした価格を簡単に値下げをしてくれないように思われる。

 以上の様に考えると、将来的には年金だけだと、ますます厳しくなりそうで、それを補うためのまとまった老後資金を貯めておく必要性は高いと思われる。 

老後資金1千万円を貯めることの可能性

 上では、年金だけでは厳しいだろうという悲観的な話をしたが、それに対応するための老後資金形成については、私はそれほど悲観的ではない。大企業のサラリーマンであれば、50歳から老後資金の準備をすると、1千万円の老後資金の形成は必ずしも難しいとも思わないからである。 

【金融庁:つみたてシミュレーター】

https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/tsumitate-simulator/ 

具体的に、金融庁のシミュレーターを使って、どうすれば老後資金1千万円を貯めることができるか考えてみる。

 ここに金額1千万円を入力し、運用利回り5%と想定し、期間10年とする。

すると、月々に必要は積立額は64,399円と出る。年間だと約773千円となる。

 サラリーマンの場合、それなりにボーナス比率が高いだろうから、ボーナスも併用することを想定すると、月に5万円、年2回のボーナスで1回あたり10万円を積立投資に振り向けると、達成可能だ。

 これはFP(ファイナンシャル・プランナー)に聞いて見ると、特別ハードルは高くはない。

仮に額面年収が1千万円だとすると、出来れば額面年収の2割を貯蓄に回したいと言われる。とは言え、住宅ローンも残っていたり、子供の教育費もあったりするので、これは厳しいとしても、額面年収の1割は何とか貯めましょうということを言われる。

 年間80万円なら、年収1千万円のサラリーマンからすると8%程度なので、それほど無理な目標では無いのではないか?

 それでは、どうするかということだが、月々の5万円は、携帯代金と生命保険の見直しだけで3万円位は浮かせることが可能である。そして、後は無駄な固定費のチェックと、変動費の節約が出来ると、あと2万円位節約できる余地はある。それが厳しいのなら、副業的な収入を増やすという方法があり、メルカリ、家庭教師、情報発信系、隙間バイト等、なんでもいいが月2万円くらいなら、なんとかならないだろうか?このあたりの方法については後述する。

 5万円、ボーナス10万円というのは、年収水準、住宅ローン、教育費、介護費等家庭によって様々であろうが、年収1千万円あれば可能性は有るだろう。それに、「1千万円」というのは1つの目安に過ぎないので、年間合計80万円の積立投資が厳しいなら、それを下げて、出来る範囲で800万とか600万円を目標にやってみればいいと思う。

 2.老後資金1千万円に向けた実行プロセス(手順) 

①目標貯蓄額の設定

 まずは老後資金の目標金額の設定である。

1千万円というのはとりあえず分かりやすい金額であるだけであって、実際の目標金額は、自分の資産、収入、今後見込まれる支出額等に応じて決めればいい。

その際の目安になるのは、年間で積立投資に振り向ける金額が額面年収の1割以内に収まれば、それほど無理な目標ではないと思われる。

 運用期間(50歳スタートであれば10年間)、月々の積立金額(年間積立目標額の1/12)であるが、想定運用利回りは余り楽観的にしない方がいいだろう。FP(ファイナンシャル・プランナー)に私が相談に行った際は、シミュレーションで6%と置いたが(投資対象は100%グローバル株式)、ここは控え目に5%位に置いた方がいいだろう。

 ここでのポイントは、リスク資産に長期間継続することによって、限られた月々の積立額で成果を得ることなので、無理な目標を設定しても継続できないと意味が無い。また、将来まとまった支出がありそうな場合、積立投資のお金を途中で取り崩すと勿体ないので、積立投資の分は固定化しても大丈夫な範囲でやりたいところである。

 もちろん、一旦、始めてみて途中で目標金額を変更するのは構わないだろう。 

②家計の見直し

 大雑把な目標額を設定した後に、家計の見直しをやってみることが必要である。

年間80万円の積立投資を目標とする場合、年収アップではなく、節約によって原資を捻出する方が現実的である。何故なら、老後資金の準備を始める50代になると、出世や転職による年収アップは期待し難いからである。

 年収1千万円だとすると、それまで節約を本格的に取り組りくんでいないのであれば、月3万円程度の捻出は十分可能性がある。例えば、節約本を見ると、生命保険の見直しと、携帯電話を格安SIMに代えると、それだけで3万円位は浮かせることが可能という。

 他に、住宅ローンの見直し、使っていないアプリのチェックと固定費の削減が出来れば、まだまだアップサイドはある。そして、固定費の節約が軌道に乗ると、次は変動費にメスを入れることも可能だ。不定期的な交際費、日頃のコンビニでの浪費等をコントロールできると、節約だけで月に5万円を捻出することも夢ではない。

 但し、節約はストレスに繋がりがちなので、趣味・娯楽、食べることに関する節約は注意が必要で、自分にとっての「優先順位」を考えることが大切だ。

 家計の見直しの際には、今後見込まれる大きめの支出を踏まえておく必要がある。

典型的なものは、子供の教育費、住宅の修繕・リフォーム、クルマの買い替え、家具・家電等の耐久消費財の購入等である。

 家計の見直しを実行するにあたっては、FP(ファイナンシャル・プランナー)に相談してみるのも悪くない。第三者に客観的な目で見てもらった方が、いろいろと自分では見えない無駄とかが見えるからだ。 

③金融商品選び

 老後資金の目標金額を決め、家計の見直しによって、現実的な積立投資が出来そうな金額、原資がわかると、いよいよ、積立投資の実行である。

 それまでは、想定利回りを「5%」と置いていたところ、具体的にどの金融商品に投資をするか決める必要がある。

 金融商品にはいろいろな商品があるし、下手に金融機関で相談すると変な金融商品を買わされるリスクもある。

 このため、特に強いこだわりが無ければ、ここはオーソドックスにオルカンとかS&P500のインデックス投資でいいだろう。

 ここで重要なのが、メディアやSNSでの情報を鵜呑みにするのではなく、自分自身が納得した上で実行することである。人の言うとおりに思考停止で投資をしてしまうと、今後、人の言うことに流されてしまうリスクがあるからである。 

④金融機関に行く(積立投資の開始)

 ここでのポイントは、投資対象となる金融商品を決めた後で、金融機関に行くということである。金融商品を選定するために金融機関に行ってしまうと、変な金融商品を買わされるリスクがあるからである。

 最初に、金融商品を決めて、それを実行する目的で金融機関に行くというわけである。

資産形成に関する書籍やウェブコンテンツにおいては、ネット証券を推奨する意見もあるが、別にネット回りが弱い人は、金融機関の実店舗を訪問するのでも構わない。

 私の場合は、生活費に係る出し入れに使っているメガバンクを避け、投資のみを目的として、信託銀行に口座開設をして、取引を開始した。 

⑤定期的なレビューを行う

 上記の④でとりあえずは完了なのだが、定期的に自分の積立投資がどうなっているのか、レビューを行う必要がある。リスク資産に投資をするので、途中値下がりすると不安になるが、長期の老後資産形成目的ということなので、ジタバタしない方がいいと思う。反対に、「ほったらかし投資」をしても大丈夫な範囲で積立投資を行うべきであり、減っては困るお金をこちらに振り向けないようにしなければならない。 

3. 老後資金の積立をやらない理由と対応策

 今まで長々と書いてきたのに申し訳ないが、ここまでは大した話ではない。

良く知られた話であって、まとめると、これだけの内容である。 

  • 家計を見直し節約を行い、また可能であれば副業等も行って、毎月5万円、ボーナスから10万円を捻出して、積立投資の原資を作る
  • 金融機関に口座を開設し、そこで毎月6万5千円を、オルカンとかS&P500等のインデックスファンドに積立投資を実行する
  • 定期的に運用状況をチェックする

 ただ、老後資金の蓄積に向けて、実際にこれを実行できる人はどれだけいるだろうか?

金額的には、50代だと年収1千万円以上が見込まれる大手のサラリーマンであれば、十分実行可能だと思われる。

 しかし、現実的には、上記を実行するにあたって、何らかの障害が存在するのだと思われる。

網羅性は無いかも知れないが、ざっと、以下の様な理由が思い当たる。 

1)知識不足:メンター不在

 「インデックスファンドで積立投資」みたいな話は、本でもSNSでもYouTubeでも溢れている。しかし、それなりの金額を、損するかも知れない金融商品につぎ込み続けるわけなので、それまで投資経験が無い人にとっては十分な自信が持てないのかも知れない。

 その点、親戚、会社の同僚とかに詳しい人がいて、背中を押してくれたらいいのだが、「俺は投資をやっているぞ」と言って他人に投資を進める人は多くないだろう。

 結局、「投資を始めなければ」「NISAiDeCoをやらないと」という問題意識はあっても、投資に関するメンター的な人が身近にいないと、始められないまま時間だけが過ぎていくパターンなのかも知れない。 

2)元本割れの不安

 「積立投資」「インデックスファンド」「時間分散」と言っても、元本割れのリスクが無くなる訳ではない。そして、2025年の「トランプショック」によって、株や為替で損をした人達を見ると、「やっぱり投資は怖い」と思っても不思議ではない。

 ただ、これは上記(1)にも当てはまる話であるが、元本割れのリスクが嫌で積立投資による老後資産の形成ができないのであれば、元本保証の積立定期預金にすればいいだけの話である。

 銀行での積立定期預金であれば、メンターは不要だし、元本割れの心配も無い。

「それだと、老後資産の形成にならない」のだろうか?

 例えば、毎月約6万4千円を想定運用利回り5%で10年間かけて1千万円を作るケースであれば、このうち運用益の部分は227万円で、元本部分は773万円である。

ということは、計算の便宜上、積立定期預金の利回りをゼロと仮定しても、10年後には773万円貯まる訳である。運用期間が15年、20年となると違ってくるが、10年間だと驚くほども違わない。

 もちろん、10年間で、この227万円の運用益の部分を大きいと見るか、小さいと見るかは意見が分かれるかも知れないが、同じ月々の金額を定期預金に振り向けても、決して少なくはない額の老後資金を形成することは出来るのである。

 このあたりは、「複利効果」を課題に評価する必要は無いということであろうか?

 いずれにしても、投資が良くわからないとか、元本割れは嫌だということだけでは、老後資金の形成を行わない理由にはならないということだ。

 それには、やりたくない他の理由があるのかも知れない。 

3)節約が嫌だ

 「投資はよくわからない」、「元本割れは嫌だ」、「金融機関に行っていろいろと手続きをするのが面倒」等、積立投資を始めたくない理由はあるだろう。

 確かに、老後資金を形成することは大切と頭ではわかっていても、特に投資経験が無ければ、積立投資を行うのは面倒くさいという心情は理解できなくもない。

 ただ、その場合には積立定期預金に代えればいいだけの話で、それだとリスクは無いし、手続き的に特に面倒なところも無いだろう。

 それでも、老後資金形成を始められない理由として、「節約が嫌だ」という理由がある可能性がある。

 「節約」はストレスを伴いがちなので、やらないといけないとわかっていても、ダイエットと同様に、気が進まないものなのだ。

 その場合には、節約に伴う「ストレス」をなるべく軽減する形で始めることを検討すればいい。食事、趣味などを削るとストレスに繋がり易いが、よくよく家計を見直してみると、生活における満足度を損なうことなく節約が可能な支出項目を見つけることもできる。

 ポイントは、自分自身の生活における「優先順位」を明確化することである。

削りたくない、削ると満足度が下がるような項目を抜き出してみて、それ以外の項目の節約を考えればいい。

 それから、「節約」における「目的」「メリット」「モチベーション」を明確化することも重要だ。何か目的があるからこそ、節約をやるわけであって、何となく節約をするということは普通はない。老後資金が十分溜まれば、それによってどのようなメリットがあるか、また、老後資金が不十分だと定年後にどういった問題が生じるか?このあたりを明確に意識できるかどうかも、節約を遂行するためのポイントである。

 節約は、貯金箱1個あればすぐにでも始めることができる。

これは、別記事でも書いているが、とりあえず「100円貯金」あたりから始めてみるのも1つの方策だ。 

4)情報過多

 やる気は満々でも、老後資金の形成や、そのための節約を阻害する要因がある。

その1つが「情報過多」により、何をやればいいか、何が正解かがわからなくなってしまうことである。

 実は私も、「情報過多」によって、生命保険の見直しを出来ないままの状態に陥っている。

生命保険の見直し(削減)については、書籍、ウェブメディア、ほけん百花等、いくらでも情報源があるのだが、情報収集をしていく過程で、大きく異なる意見に出くわし、何が正解かがわからなくなってしまうのだ。

 このあたりは、中立的な保険に詳しいFPに相談する他ないと思っているが、そういう人は簡単には見つからない。

 本やネットを見ると、社会保険で結構カバーできるので、生命保険に使う金額を積立投資をした方がいいという意見をよく見かけるが、実際のところ、ある程度の医療保険に加入してもいいのではないかと悩んでいるところである。 

5)副業が無い

 これは、節約をどう遂行するかとは、また別の次元の悩みであるが、月々5万円が目標だとすると、節約だけで3万円は何とかなるかも知れないが、5万円となると、ちょっと厳しい。その場合、2万円は副業等で補う必要がある。

 副業奨励の環境下、メルカリ、アフィリエイト、note、ココナラ、隙間バイト等、少額を稼ぐ手段はいろいろある。月に2万円を副業で稼ぐことなど、楽勝という気もしないではない。

 しかし、長年サラリーマン一筋のオジサン達の場合、いざ月に2万円稼ぐために副業をやろうと思っても、これが意外と難しい。

 メルカリを頑張っても、売るものが無くなると行き詰る。また、ブログブームが去った今、アフィリエイトやアドセンスで収益を得るために、毎日2千字のブログ記事を半年以上書き続ける忍耐力は無い。文章を書くのが苦手だとすれば、画像や動画、InstagramYouTubeという切り口もあるが、こちらは文字系メディア以上にハードルが高いかも知れない。

 そうなると、飲食店とかコンビニでバイトをした方が手っ取り早いかも知れないが、会社に副業の許可を取るのが億劫だし、事務系の仕事に慣れているので、立ち仕事は嫌だと思う人がいるかも知れない。

 もっとも、副業で稼ぐのが苦手なままだと、フルリタイアした後に苦労するかも知れない。

単なるお金の問題だけでなく、自分なりの居場所の確保も重要であり、社会との関りのある仕事を持つ意義は大きい。50代であれば、再雇用期間を含め、まだまだ時間はあるので、ネットでの情報発信系でも、アルバイト、内職系でも何でもいいので、自分にフィットした副業をいろいろ試してみるのがお勧めだ。 

年金+αをどう実現するか?

 サラリーマンの場合、退職金があるし、年金制度も自営業者よりは恵まれていると言えるだろう。とは言え、年金だけだと経済的には十分とは言えないので、何らかの年金を補完できる「+α」、要するに、貯蓄や金融収益が求められる。

 このため、老後資金の準備を始めるのは重要だが、いろいろと面倒なことも多い。

 ただ、その面倒なことに対応するための、節約術とか副業スキルはリタイアした後も有効な息の長いスキルであるので、50代のうちに挑戦して習慣化しておきたいものだ。